PLLシンセサイザ-の設計

PIC16F84用制御プログラム(参考) PLL制御OSCユニット回路図(参考)
(MWO-11.4実測特性表) 参考文献


設計の前に
現在、電子機器に用いる発振回路はPLL(フェーズ・ロックド・ループ)を使用する事が多く周波数安定度や周波数の可変、或いは周波数精度とどれをとっても良いこと尽くめです。
しかし、我々アマチュアのレベルでは技術的な問題が多く、自作派の少ない今日に於いては製作例も少なく、専門書を見てもなにやら難しい理論ばかりで現実が見えてきません。
また、PLLの欠点でもあるCN比 を良くする事の難しさも自作数が少ない理由の1つでしょう。
ところが、近年携帯電話やPHS等の小型移動無線機の技術進展に伴い我々の使えそうなPLL専用ICが多く出ているのも事実で、アマチュア精神でトライすればそこそこ使えそうになってきました。ここで取り上げたICは富士通のMB15シリーズMB1501ですが、このシリーズは一般にも手に入りやすく、以下のような特徴を持っています。
 1.PLL回路をほぼ1チップ化されており周辺回路が少なくて済む。
 2.高い周波数(1.1GHz)まで使用できる。
 3.パッケージも小型で消費電力が小さい。
 4.比較的制御が簡単でプログラムしやすい。
 5.価格が安い

1は回路を簡略化でき調整部分が少ないということで自作の成功率が上がります。
2はアマチュアの1.2GHzや2.4GHzでも使用できそうです。
3は高い周波数で気になるリードインダクタンスや浮遊容量などが、チップ部品と併用することで解消できそうです。
4は1チップのCPUで比較的簡単に制御でき、プログラムもそう難しくありません
5は秋葉原で\300前後なので壊れても惜しくないレベルと思います。
最新情報では、このMB15シリーズはMB15ExxSL,MB15FxxSLシリーズとして最先端の BiCMOSプロセスである U-ESBICの採用と新規回路の採用により 2.5GHz帯対応で標準3.5mA(Vcc=2.7V時)等、低消費電流、低電圧駆動の製品がラインナップされています。

現在入手できるMB15シリーズのデータシート情報
富士通のMB15シリーズでは、ここで紹介しているMB1501は既に製造されていないため入手が難しい状態です。 しかし、上記に紹介したように、後継として同等以上の機能を持ったPLLがたくさんあります。 基本的なPLLへの制御方法はどれも同じですので、データシートを見て研究してみて下さい。
富士通MB15シリーズPLL-ICデータシート
◇MB15シリーズの入手先例 ==> アールエスコンポーネンツ(株)プリスケーラ内蔵PLLのページ
◇予備:MB1501データシート(英語版PDF)はこちらに置いておきます。

PLL(フェーズ・ロックド・ループ)とは何ぞや?
発振器には、コルピッツ、ハートレ-、ピアース、クラップ等、色々な回路を想像されると思いますが、 いずれも良く調整されたとしても正確な周波数や安定度を確保するには限度があります。
そこで水晶発振回路となると上記事項はある程度満足のいく物が得られますが、逆に周波数可変がうまくいきません。
無理にVXOなどとしても可変範囲が狭く、 安定度は固定周波数より落ちてしまいます。
何とか広い可変範囲で水晶発振と同じ安定度が得られないかと考え出されたのがPLLなのです。
 原理は、基準にする安定度が高い水晶発振器(refOSCとする)と、希望する周波数の発振を一般の 発振器バリキャップを使用し電圧で 周波数可変できるようにした発振器(VCOとする)を用意します。
この2つの発振器は互いに周波数が違いますがVCO側の周波数を分周しrefOSCと同一、或いはrefOSCを分周した周波数と同一に なるようVCO側の分周比を設定し、その周波数における位相誤差を 電圧変換してVCOにフィードバックする事により水晶発振器と同じ安定度が得られます。
 またVCOの分周比を変えることにより周波数を正確に可変する事ができます。
これを式で表すと

 F_vco:VCOの発振周波数
 ref_OSC:基準発振器周波数
 F_ref:比較周波数
 N:VCOの分周比
 M:ref_OSCの分周比
 とすると

 F_ref = ref_OSC÷M
 F_vco = F_ref × N

よってNを可変する事でF_vcoはF_refの周波数ピッチで可変できることになります
 例えば

 ref_OSC = 10MHz
 M = 2000
 N = 28800~29200
 とすると

 F_ref = 10MHz÷2000 = 5KHz
 F_vco = 5KHz×28800 = 144MHz (N=28800の時)
 F_vco = 5KHz×29200 = 146MHz (N=29200の時)

となりF_vcoは144MHzから146MHzまで5KHzピッチで発振周波数を設定できることになります。
ここで144MHzのFMトランシーバーを想像して下さい。上記の仕組みが何となく理解できたでしょうか?
そう、ダイアルを回しているのはバリコンを回していたのではなく実は分周比Nを可変していたのです。
周波数がデジタル化できるのは、この分周比Nが正確に周波数と関連していて数値として扱われるために簡単に 表示できるからでもあります。
 尚、この方式は「直接分周方式」と言われる方式で、実はこれから設計するPLLは「デュアル・モジュラス・プリスケーラー方式」 とよばれる方式で、分周の仕方にチョットしたからくりがあります。


では、さっそく設計へ
 前置きが長くなりましたが、これから先の細かいことは専門書に任せることにして具体的な計算に入ります。
理屈並べても仕方ないので、数値を入れて進み方を説明します。
図2の構成を考えました。計画中のトランスバーターの局発です。
周波数構成は下記の通りで図はNo.5の2nd_VCOです。

No.1
目的周波数:144~146MHz  親機周波数:44~46MHz  1st_VCO:100MHz
No.2
目的周波数:430~440MHz  親機周波数:30~40MHz  1st_VCO:100MHz x 4 =400MHz
No.3
目的周波数:1270~1273MHz 親機周波数:37~40MHz  1st_VCO:105MHz
2nd_VCO:1128MHz
No.4
目的周波数:1290~1295MHz 親機周波数:40~45MHz  1st_VCO:100MHz
2nd_VCO:1150MHz
No.5
目的周波数:1295~1300MHz 親機周波数:45~50MHz  1st_VCO:115MHz
2nd_VCO:1135MHz

 なにやら複雑ですが親機 FT-6553band_up、スプリアスの関係で以上の構成にしています。
F_ref は12.8MHz共通です。
比較周波数は発振周波数との公約数で10KHzとしています。
以下のフォームに既入力データを例として入れていますが、実際は設計するデーターを入力して下さい。
この例では2nd_VCOをスワロー誘電(株)製のMWO-11.4を使用しています。

(MWO-11.4実測特性表)


設計するデーターを下のフォームに入力

入力フォーム 計算結果
VCO最高周波数(vcomax) MHz Kv(vco感度) x106 rad/v.s
VCO最低周波数(vcomin) MHz Kφ(位相比較器感度) v/rad
制御電圧(fmax時) V K(直流ループゲイン)
制御電圧(fmin時) V  
位相比較器 H 電圧(PDH) V  
位相比較器 L 電圧(PDL) V
目的発振周波数(fvco) MHz VCO分周比(N)
比較発振器周波数(fosc) MHz 比較発振器分周比(M)
比較周波数(fref) KHz


入力データー項目の説明
VCO最高周波数、最低周波数
    制御するVCOが下記制御電圧範囲で出力できる周波数の最高と最低。
    使用するVCOを実験的に範囲を確認しておく必要がある。
制御電圧
    上記VCOを制御したときの最高周波数及び最低周波数における電圧
    上記と同様に実験的に実際の回路を確認しておく。
位相比較器 H(L)電圧
    PLL ICから制御電圧として出力できる電圧の範囲。
    ほぼ電源電圧近くまで出力できるが、安定な動作をさせるためには
    少し範囲を狭めた方が良い。尚、外付けチャージポンプ回路がある時は
    それの電源電圧から範囲を決める。
目的発振周波数
    希望とする周波数、もちろんVCOが制御電圧範囲で周波数をカバーできる
    ことは必須条件。
比較発振器周波数
    基準とする水晶発振回路の周波数。2重PLLの場合、基準周波数自体も
    PLLで構成されることもある。
比較周波数
    VCOの分周波と位相比較する周波数。多チャンネルなどの仕様では、この
    周波数がチャンネルセパレーションとなる。ただし、比較発振器とVCO周
    波数とで公約数の関係でなければならない。そうしないと希望の周波数
    にならない

出力データー項目の説明
 計算結果はおもに分周比を見て貰うことにして、その他はチャージポンプ出力のLPF定数計算へ移行するためのデーターで参考としてだけ見ていただきたい。
上記分周比からMB1501の設定値を下記フォームで計算します。


上記フォームの計算完了後に押して下さい。――→
MB1501分周設定計算結果 2進表記
バイナリ14bitプログラマブル・リファレンスカウンタ設定値
(8~16383)
プリスケーラ分周器M(64or128) SWビット(SW)
バイナリ11bitプログラマブル・カウンタ設定値
(16~2047)
バイナリ7bitスワロ・カウンタ設定値
(0≦A≦127)


 この計算結果は次の

f_vco = [ ( M x N ) + A ] x fosc/R (A<N)

の式で計算されますが、あってますか?
2進表記は、設定データーをワンチップマイコンなどにプログラムするとき 役立つと思います。
 次は、今の2進表記を実際MB1501へセットするときの入力タイミングとして 並び替えを行います。


上記フォームの計算完了後に押して下さい。――→
基準分周器の分周比データ
C S1 S2 S3 S4 S5 S6 S7 S8 S9 S10 S11 S12 S13 S14 SW
比較分周器の分周比データ
C S1 S2 S3 S4 S5 S6 S7 S8 S9 S10 S11 S12 S13 S14 S15 S16 S17 S18


実際のビット書き込みは各データの左側より入力していきます。
この辺のプログラミングはマイコンチップにより変わると思いますが、 PIC16F84用のプログラムを参考にして下さい。


LPFの計算
MB1501の位相検波器出力は内蔵チャージポンプと外付チャージポンプ用の 2種類が出力されますが、最終的にチャージポンプの出力は
H レベル
Hi-Z
L レベル

の3状態で位相ずれに応じてパルスを出力します。(図3参照)
このパルスをVCOの制御電圧とするためにLPF(ループ・フィルター)を通します
このLPFの設定が一番難しいところで、定数によってCN比、スプリアス、応答 速度、安定性、等がほぼ決まります。
先に計算で出力したデーターを元に計算しますが、専門家でも最終的な定数は、 実験の繰り返しによって最適化するものと考えて下さい。
よって次の入力フォームは、幾つかこちらで指定するようにしています。
 LPFの種類は「ラグ・フィルタ」「ラグリード・フィルタ」「アクティブ・ フィルタ」などがありますがアクティブ・フィルタ以外はゲインがないので、 内蔵チャージポンプではループゲイン(K)が大きくないと応答特性が満足できない 可能性があります。
ここでは「ラグ・フィルタ」「ラグリード・フィルタ」の場合を算出します。


設計するデーターを下のフォームに入力

入力フォーム 計算結果
減衰定数(ζ) ωn(固有角周波数) rad/s
固有周波数(fn) Hz ωr        rad/s
コンデンサC μF     ラグ・フィルタ   ラグリード・フィルタ
  R1
  R2 ---
  τ1 ms ms
τ2 --- ms


入力データー項目の説明
減衰定数
    フィルタの減衰定数は一般には0.5~1.0
    程度にする事が多く、通常0.7程度が多い
    ようです。
固有周波数
    フィルタの固有周波数で基準周波数のスプ
    リアスに関係しています。
    一般に比較周波数に対して1/100~1/300に
    選ぶのが良いとされていますが、実験と定
    数変更を繰り返して最適値を選ぶのが良い
    でしょう。
コンデンサ
    フィルタの時定数は先のデータで算出され
    ますが、抵抗とコンデンサの組み合わせで
    どちらかを先に決定しないといけないので
    ここではコンデンサを先に選び抵抗値を計
    算結果より24系列に近似した値になるよう
    調整します。

出力データー項目の説明
R1,R2
    それぞれのフィルタの抵抗値で、コンデンサの値を調整して決定します。
τ1、τ2
    フィルタの時定数です。

 実際は、スプリアス抑圧のため固有周波数(fn)をかえて2~3段のLPFにしたり実験を繰り返して決定する必要があります。


PIC16F84用制御プログラム(参考) PLL制御OSCユニット回路図(参考) (MWO-11.4実測特性表)
参考文献


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